SNSで見えるわたしのジェンダー

SNSで見つめ直すジェンダーの自分 若者の探求プロセスと親ができること

Tags: SNS, ジェンダーアイデンティティ, 若者, 子育て, 多様性

現代の若者とSNS、そしてジェンダー

現代の若者にとって、SNSは日々の生活から切り離せない存在です。友人との交流はもちろん、情報収集、趣味の共有、そして自己表現の場として活用されています。インターネット上には、様々な考え方や生き方に関する情報が溢れており、リアルな世界だけでは触れることのなかった多様な価値観にアクセスすることが可能になっています。

こうした環境の中で、若者は自身のジェンダーについても、より深く、多角的に考える機会を得ています。生まれたときに割り当てられた性別と、自分が「自分らしい」と感じる性別(性自認)、そして社会との関わりの中で表現したい性別(性表現)が必ずしも一致しない人がいること、また、好きになる相手の性別(性的指向)も多様であることなど、ジェンダーに関する多様なあり方について学ぶことができます。

親世代の中には、子供がSNSを通じてこうした情報に触れることに対し、どのように向き合えば良いのか、またジェンダー多様性について自分自身が十分に理解できているか不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、若者がSNS上で自身のジェンダーについてどのように探求し、それがアイデンティティ形成にどのような影響を与えうるのかを探り、そして親としてどのような姿勢で子供と関わることが有効かについて考えていきます。

SNS上でのジェンダー探求の様相

若者はSNS上で、様々な形で自身のジェンダーに関する探求を行っています。

まず、情報収集の場としてSNSは非常に有力です。性に関する専門家や活動家の発信する情報、同じような疑問や悩みを持つ人々の体験談、多様なジェンダーに関する解説動画やインフォグラフィックなど、アクセスできる情報の種類は多岐にわたります。こうした情報に触れることで、自身の抱える違和感や疑問に名前がついたり、他の人も同じように感じていることを知ったりすることができます。

次に、他者との交流を通じて自身のジェンダーについて深めていく側面があります。特定のジェンダーに関するテーマを扱うオンラインコミュニティやグループに参加したり、ダイレクトメッセージで個人的な相談をしたりすることで、共感を分かち合い、安心して本音を話せる場を見つけることがあります。リアルな友人や家族には話しにくい内容も、オンラインの繋がりのなかでは話しやすいと感じる場合もあるでしょう。匿名性や擬名性があることで、様々なジェンダー表現や自己開示を試す人もいます。

さらに、SNSは自己表現の場でもあります。自身のプロフィールに性自認や性表現に関する情報を加えたり、投稿する写真や文章、選ぶアバターなどを通じて、自身の内面にあるジェンダーの感覚を表現したりします。これは、自身のジェンダーアイデンティティを外部に向けて表明する練習や、どのような表現が自分らしいのかを模索するプロセスの一部と言えます。

SNSでの経験がジェンダーアイデンティティ形成に与える影響

SNSでのこうした経験は、若者のジェンダーアイデンティティ形成に多岐にわたる影響を与えうる可能性があります。

肯定的な側面としては、多様なジェンダーのあり方を示すロールモデルや、同じような経験を持つ人々との出会いを通じて、自身だけではないという安心感を得たり、自己肯定感を高めたりすることが挙げられます。自身のジェンダーについて言葉にしたり表現したりする機会を得ることで、アイデンティティがより明確になったり、受け入れられたりする経験は、心理的な安定につながります。また、リアルな場ではアクセスが難しい情報やコミュニティに繋がれることは、孤立を防ぎ、必要なサポートを見つける上で重要です。

一方で、懸念される側面も存在します。SNS上には、偏見に基づいた情報や、医学的・心理学的な根拠の乏しい情報も混在しており、それらに触れることで混乱したり、誤った理解をしてしまったりするリスクがあります。また、他の人との比較を通じて、自身のジェンダー表現やあり方について不安を感じたり、理想と現実のギャップに苦しんだりすることもあります。匿名性が生む攻撃性により、誹謗中傷やいじめの対象となるケースも残念ながら存在します。そして、オンラインでの自己表現とリアルな自分との間で葛藤を抱える若者もいます。

SNSは強力なツールですが、その影響は光と影の両面を持つと言えます。若者がその中で自身のジェンダーを探求することは自然な流れですが、大人がそのプロセスを見守り、サポートする視点が求められます。

親世代が理解しておくべきジェンダー多様性の基本的な視点

子供がSNSを通じてジェンダーについて様々な情報に触れる中で、親世代がジェンダー多様性について基本的な理解を持っておくことは、子供との建設的な対話のために非常に役立ちます。

まず、ジェンダーは、生まれたときに外性器の様子などで判断される「生物学的な性別」とは異なる概念であるという点を理解することが大切です。ジェンダーには主に、自分がどのような性別であると感じているかという「性自認(心の性)」、そして服装や言葉遣い、振る舞いなどで社会に対して表現する「性表現」、好きになる相手の性別を指す「性的指向」といった側面があります。これらは必ずしも一致するものではなく、また、男性/女性という二分法だけでは捉えきれない多様なグラデーションがあることを理解しておくことが重要です。

性自認と生まれたときに割り当てられた性別が一致する人をシスジェンダー、一致しない人をトランスジェンダーと呼びます。性自認が男性、女性のいずれでもないと感じる人もいます(ノンバイナリーなど)。性的指向も、異性を好きになる異性愛、同性を好きになる同性愛、両方を好きになる両性愛、誰にも性的な惹かれを感じない無性愛など、多様なあり方があります。

学術的な定義を完璧に覚える必要はありません。重要なのは、「性別のあり方や、どのような人を好きになるかは人それぞれ多様である」という基本的な考え方を受け入れる姿勢を持つことです。子供が話すジェンダーに関する言葉や、表現したい服装などが、もし自身の理解と異なっていたとしても、頭ごなしに否定せず、まずは「そういうあり方もあるんだな」「うちの子はそう感じているんだな」と受け止めることから始めるのが第一歩となります。

子供とのコミュニケーションのためのヒント

子供がSNSを利用している場合や、ジェンダーについて何か考えたり悩んだりしている様子が見られる場合に、親としてどのようにコミュニケーションを取れば良いのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。

  1. 日頃からオープンな対話を心がける: SNSのことだけでなく、学校での出来事、友人関係、興味があることなど、普段から様々な話題について気軽に話せる関係性を作っておくことが重要です。親が一方的に質問攻めにしたり、子供の話を否定したりするのではなく、「どんなことに興味があるの?」「最近面白いことあった?」といった軽い問いかけから始め、子供が話したい時に話せる安心感のある関係性を目指しましょう。
  2. 子供の話を「聞く」姿勢を大切にする: 子供がジェンダーについて何か話してくれた時、たとえ親の理解と違ったり、心配になったりする内容だったとしても、まずは最後まで「聞く」ことに徹しましょう。途中で口を挟んだり、評価したり、自分の価値観を押し付けたりすることは避け、子供が自身の気持ちや考えを安心して表現できる場を提供することが最優先です。「なるほど、そう感じているんだね」「そういう考え方もあるんだね」のように、まずは受け止める言葉を返すことが有効です。
  3. SNSでの利用状況や興味関心に関心を持つ: 子供がどのようなSNSを利用していて、そこでどのような情報に触れ、どのようなコンテンツに興味を持っているのかについて、子供を詮索するような態度ではなく、純粋な関心として尋ねてみましょう。「最近何か面白い投稿見た?」「この前話してた〇〇って、SNSでどんな情報を見てるの?」といった聞き方で、子供が見ている世界の一部を共有してもらうことで、対話のきっかけが生まれることがあります。
  4. 分からないことは一緒に学ぶ、信頼できる情報源を探す: もし子供からジェンダーに関する質問をされたり、子供が見ている情報について話を聞いたりする中で、親自身に分からないことがあった場合は、知ったかぶりをせず、正直に「それは分からないな。一緒に調べてみようか」「こういう情報があるみたいだけど、どう思う?」といった姿勢で臨むことも大切です。信頼できる専門機関や情報源を一緒に探すことで、共に学ぶ機会とすることができます。
  5. 探求のプロセスを見守る: ジェンダーアイデンティティの探求は、若者にとって時間のかかる、複雑なプロセスであることがあります。すぐに明確な結論が出るわけではありません。様々な情報に触れ、自身の内面と向き合い、時には揺れ動きながら、自分にとってしっくりくるあり方を見つけていく道のりです。親としては、性急な結論を求めたり、特定の方向へ誘導したりするのではなく、子供自身のペースで探求が進むよう、温かく見守る姿勢が求められます。

まとめ

SNSは現代の若者にとって、自身のジェンダーについて多様な情報に触れ、他者と交流し、自己表現を試みる重要な場となっています。これは、ジェンダーアイデンティティの探求というプロセスにおいて、新しい可能性を提供する一方で、情報過多や他者との比較といった懸念も伴います。

親世代がSNSとジェンダー多様性について理解を深め、子供との間に信頼関係を築き、オープンで「聞く」ことを重視した対話を続けることは、若者の健やかな成長をサポートする上で非常に重要です。子供が自身のジェンダーについて考え、探求する道のりを、焦らず、否定せず、温かく見守る姿勢が、子供の自己肯定感を育み、安心して自分らしくいられる環境を築くことに繋がるでしょう。