SNSで「好き」から広がるジェンダーへの視点 若者の共感と自己形成
現代の若者と「好き」、そしてジェンダー
今日の若者世代にとって、SNSは単なる連絡手段ではなく、世界と繋がり、「好き」を見つけ、育むための重要なプラットフォームです。音楽、ゲーム、アニメ、特定のインフルエンサーやクリエイターなど、彼らはSNSを通じて様々な「好き」に出会い、深い共感を覚え、コミュニティを形成しています。
そして、こうした「好き」の世界は、若者たちが自身のジェンダーについて考えたり、多様なジェンダー表現に触れたりする場ともなっています。親世代の中には、子供がSNSで何を見ているのか、それが子供にどのような影響を与えているのか、特にジェンダーのようなデリケートなテーマについて、どのように理解し、関われば良いのか戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、若者がSNSで「好き」を通じてどのようにジェンダーに触れ、自己を形成していくのか、そして大人がどのように向き合えば良いのかを探ります。
SNS上の「好き」が提示する多様なジェンダー
SNS上には、多種多様なコンテンツや人々が存在します。若者は自分が「好き」だと感じるものをフォローしたり、関連するコミュニティに参加したりすることで、意図せずとも様々なジェンダー表現やジェンダーに関する価値観に触れることになります。
例えば、特定のインフルエンサーやアーティストは、既存のジェンダー規範にとらわれないファッションや言動で自己を表現していることがあります。また、好きなゲームやアニメのキャラクターを通じて、多様な性別表現や関係性に触れることもあるでしょう。趣味のコミュニティでは、参加者が自身のジェンダーやセクシュアリティについてオープンに語り合っている場面に出会うかもしれません。
このように、SNSにおける「好き」は、若者にとって単なるエンターテイメントに留まらず、現実世界だけでは得られにくい多様なジェンダーのあり方や考え方に触れる窓口となっています。彼らはそこで提示される多様な表現を、自分自身のジェンダーを考える上でのヒントや選択肢として無意識のうちに吸収している可能性があります。
「好き」への共感がジェンダーアイデンティティに与える影響
SNSにおける「好き」への共感は、若者のジェンダーアイデンティティ形成に肯定的な側面と、懸念される側面の双方をもたらし得ます。
肯定的な側面としては、まず多様なジェンダー表現に触れることで、自身の内面に存在する多様な側面を受け入れやすくなることが挙げられます。社会的な期待や固定観念にとらわれず、「なりたい自分」のイメージを膨らませるきっかけとなる場合もあります。また、同じ「好き」を持つ人々が集まるコミュニティで、ジェンダーについてオープンに語り合える安心できる場所を見つけたり、自身のジェンダーに関わる悩みを共有したりすることで、孤立感を軽減し、自己肯定感を高めることに繋がる可能性もあります。
一方で、懸念される側面も存在します。SNS上で特定のジェンダー表現や価値観にのみ繰り返し触れることで、それが唯一の正解であるかのように偏った認識を持ってしまうリスクがあります。また、キラキラと輝いて見えるインフルエンサーの完璧に見えるジェンダー表現に憧れすぎたり、現実離れした理想を追い求めたりすることで、現実の自分とのギャップに苦しむことも考えられます。さらに、コミュニティ内での同調圧力が働き、自身の本当の気持ちやジェンダー観を抑圧してしまう可能性も否定できません。
親世代がジェンダー多様性を理解するための視点
若者がSNSで多様なジェンダーに触れる時代において、親世代がジェンダー多様性について基本的な理解を持つことは、子供とのより良い関係を築く上で助けとなります。
ジェンダーは、生まれ持った生物学的な性別(セックス)だけでなく、個人が自身をどのような性別だと認識しているか(ジェンダーアイデンティティ)、社会的に期待される性別役割や表現(ジェンダーロール、ジェンダー表現)など、複数の側面を持つ複雑な概念です。そして、これらの側面は必ずしも一致するわけではありませんし、生まれた時に割り当てられた性別とは異なる認識を持つ人もいます。これは病気や特殊なことではなく、人間の多様性の一部であるという基本的な視点を持つことが大切です。
全ての概念や用語を完全に理解する必要はありませんが、「男性/女性」という二元的な枠組みだけでは捉えきれない多様な性のあり方が存在することを認識しておくことが、子供たちの見ている世界を理解する第一歩となります。子供がSNSで触れる「好き」の対象が、既存のジェンダーイメージとは異なる場合でも、すぐに否定したり批判したりせず、まずはその多様性を受け止める姿勢が重要です。
子供とのコミュニケーションにおけるヒント
子供がSNSで好きなものに没頭している中で、ジェンダーに関する話題が出てきた場合、どのように対話すれば良いのでしょうか。
まず大切なのは、頭ごなしにSNS利用を否定したり、好きなものや人を批判したりしないことです。子供にとって「好き」は自己形成の重要な一部であり、それを否定されることは自身の存在を否定されたかのように感じてしまう可能性があります。
会話の糸口として、「最近〇〇(好きなもの)にハマってるんだね。どんなところが面白いの?」「その△△さん(好きな人)のどういうところが魅力的に感じるの?」など、子供の「好き」に関心を示すことから始めてみましょう。そこから、自然な流れで「その人(キャラクター)のこういう表現、面白いよね」「こういう風になりたいと思う?」といった、ジェンダーに関する話題に緩やかに繋げていくことができるかもしれません。
対話する際は、子供の言葉に耳を傾け、彼らが感じていることや考えていることを尊重する姿勢を忘れないでください。すぐに正解や親の価値観を押し付けようとせず、「あなたはそう感じるんだね」「色々な考え方があるんだね」と、まずは受け止めることが重要です。もし、子供がSNS上でジェンダーに関して困難や悩みを抱えているサインが見られた場合は、「何か困っていることはない?」「いつでも話を聞くよ」と、安心できる相談相手であることを伝えましょう。
まとめ
SNSは、現代の若者にとって「好き」を見つけ、多様なジェンダーに触れ、自身のジェンダーアイデンティティを形成していく上で大きな影響力を持つ場となっています。彼らは好きなコンテンツやコミュニティを通じて、既存の枠にとらわれない多様な価値観や表現に触れ、共感し、それを自身の世界に取り入れています。
親世代としては、SNS上の若者の「好き」の世界を知ることを通じて、彼らがどのようにジェンダーについて学び、考え、自己を表現しているのかを理解する努力が求められます。ジェンダー多様性についての基本的な知識を持ち、子供の言葉に耳を傾け、彼らの「好き」を尊重しながら対話を進めることが、子供たちの健やかな成長をサポートし、変化の多い現代社会を共に生きる上で役立つはずです。